毎日の体験を記す場所

東京新聞(中日新聞東京本社)社会部デスクの小川慎一です。原発取材班にいました。取り調べは全面可視化、検察官は証拠リストを開示すべき。金に余裕があるならクール寄付。"All sorrows can be borne if you put them into a story or tell a story about them." Isak Dinesen(どんな悲しみも、それを物語にするか、それについて物語るならば、耐えられる)

のっぺりとした記事にしない

 岐阜新聞でほっとする話題があったので取り上げる。「警官の妻、コラム人気 下呂署落合駐在所広報紙に掲載」という記事。リードはこんな感じだ。

 駐在所の広報紙にコラムを連載している下呂市小坂町落合の下呂署落合駐在所の巡査長(34)の妻(29)が、県警本部地域課から感謝状を受けた。治安情報などが並び、とかく堅くなりがちな広報紙に駐在所での家族の話題などを執筆。地元の小坂町で「ほのぼのとしてて親近感を感じる」と評判となり、警察と地域の交流を深めたとして県警本部の目にとまった。下呂署によると、警察官の家族に県警から感謝状が贈られるのは初めてという。

 長いのに、ちょっと内容が物足りない。最初の文が「感謝状を受けた」になっている時点で、気合いを感じない。記事中にリードに盛り込める内容が少ないのだが、こんな風にしてみた。冒頭はちょっと想像が入っている。

直し版> 振り込め詐欺の被害防止など堅くなりがちな駐在所の広報紙の片隅に、短いコラムが載っている。書いているのは下呂署落合駐在所の巡査長(34)の妻(29)。子供、迷い犬、家族旅行-。ほのぼのとした内容が地元で評判となり、県警は巡査長の妻に感謝状を贈った。

 リードが長い時は、いろいろ詰め込もうとしすぎだ。記事を何度か取り上げてきて、もしやデスクの趣味なのだろうかと推測している。もしそうなら、記者は踏ん張り所だ。購読者としても競合紙の記者としても、がんばれと思う。

 リードを読むと、巡査長の妻はどんなコラムを書いているんだろうかを知りたくなる。本文にはこう書かれている。

 巡査長の妻は、出産での里帰り中を除く、ほぼ毎号で執筆。高山市出身の2人にとって縁のなかった小坂町での生活や、赴任直後に生まれた長女(4)や長男(2)の話題、子どもと迷いイヌ、家族旅行などの話を書いてきた。

 ここまでざっくり書かれると、がっかりだ。こういう記事では、記者が印象に残ったコラムを引用してもいい。例えば、「子供たちは迷い犬にチロちゃんと名前を付けて、ミルクを飲ませました」とか。どうほのぼのしているのかを伝えてほしい。コラムを取り上げた記事なのに、コラムの内容をしっかり書いていない。

 それと、この記事にはコラムを読んでいる地元住民の話がない。すごく不満だ。県警は「地域との交流を深めている」と評価しているようだが、実際はどうなのか。そこを知りたい。というか、それがないので記事が全体的にのっぺりしている。

 「初めて」に振り回されてもいけない。リードに「下呂署によると、警察官の家族に県警から感謝状が贈られるのは初めてという」とわざわざ書いている。だが、なぜ「初めて」感謝状が贈られたのか、その理由をしっかり書くことの方が重要だ。本文には「家族を連れての駐在所勤務が敬遠される中、特筆すべき活動」とあるが、こんなの書いてないのと一緒。さっぱりわからない。コラムを通して、警察官の家族が地元に溶け込んでいる、住民にとって身近な存在になっているのではないのか?そこを住民にも取材して、書かないとダメだろう。

 いい話題なのにもったいないことをしている。