毎日の体験を記す場所

東京新聞(中日新聞東京本社)社会部デスクの小川慎一です。原発取材班にいました。取り調べは全面可視化、検察官は証拠リストを開示すべき。金に余裕があるならクール寄付。"All sorrows can be borne if you put them into a story or tell a story about them." Isak Dinesen(どんな悲しみも、それを物語にするか、それについて物語るならば、耐えられる)

岸田ではなく高市カラーの自民党政策パンフレット

自民党は10月12日、衆院選に向けた「政策パンフレット」と「政策バンク」を発表した。ざっと見た感じでは、岸田文雄総裁よりも高市早苗政調会長のカラーが良く出ているようだ。特に「政策パンフレット」はその傾向が強い。細かい政策を大量に並べている「政策バンク」には明記していないこともパンフレットにはあって、「ん?どうなってんのこれ?」と思ってしまう面もある。

とりわけエネルギー、原子力に関しては、パンフレットで高市カラーが出ている。12ページをスクショしたのが、これ。太陽光発電のパネルの写真の下に原子力について触れるセンスはなかなかのものだ。

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SMR(小型モジュール炉)いわゆる小型原子炉の地下立地と、核融合発電。いずれも高市氏が自民党総裁選で、開発の必要性を強調していた。岸田氏も著書などで書いてはいるが、総裁選ではあまり触れなかった。

一方で細かく政策を羅列している政策バンクでは、「核融合」について記載があるのは1カ所のみ。こんな風に書かれている。いろいろやりますの中での一つという位置付けだ。政策パンフレットの方がえらく踏み込んでいることが分かる。

○脱炭素社会、安全・安心な社会に向け、核融合半導体を含む環境・エネルギー分野、地震津波観測網等の防災・減災分野、原子力施設の安全確保や試験研究炉の整備を含めた原子力分野、素粒子物理分野の研究開発を推進するとともに、学術研究基盤の整備・共用を図り人材の育成・確保を行います。

またSMRについても、政策バンクでは直接的な言及はない。以下のようなところに含まれていると思うが、こちらもいろいろやりますの中での一つという位置付け。

○CCUS、DAC、カーボンリサイクル、次世代太陽電池原子力の新型炉、水素、バイオ燃料、e-fuelをはじめとした次世代燃料技術等の開発や人材育成を推進します。また、技術開発に取り組む企業や研究機関が得られるための環境整備を進めます。

上記のような記載に一括して、SMRと核融合発電を含んでいるとも読めるが、特に強調しているわけではないので、政策パンフレットが際立っていることが分かる。

岸田内閣は原発推進へ走るのか?

ちなみにだが、今回の岸田内閣と自民党執行部の顔触れからは、原発推進勢力が盛り返しているように見える。実際、甘利明幹事長は日経新聞のインタビューで「運転開始から原則40年の耐用年数が近づく原子力発電所について、開発中の小型モジュール炉(SMR)を実用化して建て替えるべきだ」と提唱したという。 

ただ、閣僚自体は原発再稼働はいっても、新増設にまでは踏み込んでいない。内閣「新増設考えていない」VS自民党「新増設すべきだ」という構図は、福島第一原発事故後に自民党が政権を再び握ってからはずっと続いている。長期政権だった安倍政権でも、原発の新増設は打ち出さなかったので、政権として原発の新増設に踏み込めるかというと簡単ではない。私自身は、「原発再稼働」路線は続いていくものの、新増設は打ち出せないだろうと考えている。

www.tokyo-np.co.jp

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原発の新増設は計画から完成まで長期間かかる。しかも、新規制基準適合を踏まえるなら、当初見積りを大幅に上回ることは避けられない。いま建設ストップしている東京電力東通原発青森県)や電源開発大間原発青森県)は、20年代に完成するのは難しいだろう。自民党が本気で2050年カーボンニュートラルに向けて原発が不可欠と考えるなら、新増設方針を早く明確にしないと間に合わない。小型炉のようにまだ実用化できていないものに「建て替えるべきだ」というのは、電力会社からすれば「無責任なこと言うなよ」ではないだろうか。甘利幹事長のような発言は「言ってはいる」というアピールに過ぎないように思える。

自民党は政策バンクの中で引き続き「再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減します」ともしている。福島第一原発事故から10年が過ぎ、政策パンフレットやバンクの書きぶりに変化はあるものの、原発推進にどこまで本気なのかは、選挙後ではないと分からなそうだ。