毎日の体験を記す場所

東京新聞(中日新聞東京本社)社会部デスクの小川慎一です。原発取材班にいました。取り調べは全面可視化、検察官は証拠リストを開示すべき。金に余裕があるならクール寄付。"All sorrows can be borne if you put them into a story or tell a story about them." Isak Dinesen(どんな悲しみも、それを物語にするか、それについて物語るならば、耐えられる)

岸田文雄首相は気候変動対策に関心があるのか?

自民党総裁岸田文雄氏が10月4日、第100代内閣総理大臣に就任した。新しい資本主義の実現を訴えた4日夜の会見では、岸田首相の口から「気候変動」や「気候危機」という言葉は出ることはなく、「温暖化」への言及は1度だけだった。

令和3年10月4日 岸田内閣総理大臣記者会見 | 令和3年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ

第3に、地球規模の課題に向き合い、人類に貢献し、国際社会を主導する覚悟です。被爆地広島出身の総理大臣として、核兵器のない世界に向けて全力を尽くしてまいります。また、地球温暖化対策の推進や、信頼性ある自由なデータ流通、DFFTなど、新たなルールづくりに向けて世界をリードしていきます。

10月14日の臨時国会閉会に合わせて、衆議院を解散し、総選挙に打って出る。投開票は10月31日だ。10月末には気候変動が主要テーマとなるG20首脳サミットや国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開かれるが、会見では「リモート技術を使う」と述べ、現地には行かずに参加する意向を示した。COP26では議長国の英国が脱石炭、脱ガソリンの姿勢を明確にしており、脱石炭で出遅れる日本の首相が英国に行かないことはプラスにはならないだろう。2年前のCOP25の時と同じように、国際的な批判が高まる可能性もある。

記者)衆院製の日程に近いG20サミットやCOP26への対応は?

岸田)G20あるいはCOP26への対応でありますが、こうした会議、当然のことながらこれは国際社会において大変重要な会議であると認識しています。ただ、この現状において、これはリモート等の技術によって発言をする、参加することも可能であると認識をしておりますので、できるだけそうした技術を使うことによって、日本の発言、存在力、しっかり示していきたいと考えています。

COP26では、日本の自国での対策だけではなく、途上国への支援をどうするのかも重要な課題だ。先進国が大量に排出してきた温室効果ガスによる気候変動は、排出が少ない途上国に最も影響を与えている。この不公正をどのように解決するのか。かつて環境対策の優等生と言われた日本が、途上国に対して何ができるのかを明確に示す絶好の機会に思えるが、それができるのか。多くの途上国の首脳たちも集まる場に、日本の首相がいないことは外交上マイナスにしかならないのではないか。

f:id:ogawa-s:20211005012727j:plain

岸田政権が直面する政治日程

振り返ってみると2年前のCOP25で、石炭火力発電の廃止を打ち出せずに批判を浴びた小泉進次郎環境相は、10月1日の閣議後の最後の記者会見(小泉環境大臣会見(令和3年10月1日) - YouTube)でこのように述べていた。以下、記者とのやりとり。

(記者)小泉大臣は脱炭素社会の実現には、経済社会のリデザインとか、社会システムの変革というのが必要だと常々言ってきたと思う。自民党総裁選の討論会の中で、岸田さんは地球温暖化問題についての質問に対して、エネルギー政策とかですね、企業の活動も必要だけれども、LEDとかですね、あとシャワーとお風呂の違いといったようなことが大事だというふうな発言をされました。これについて、2年間社会変革という大きなことの必要性を訴えてこられた大臣の受け止め、今後岸田さんがCOPなど国際舞台に行かれる可能性が高い中で、どういうふうに受け止めたか。

(小泉)日本の中での通用する議論だと、議論がそのまま国際社会に通用するわけではない。そこは発信されるときに、これから岸田新総理はG20の場で各国の世界のリーダーと気候変動対策を意見を交わし、COPに行くとすれば、まさにプロが集まったコミュニティーです。その場で発信するときに、日本の議論や言葉をそのまま持っていってしまうと、的確に日本の前向きなメッセージが伝わらない可能性があることは、私も体感をしていますし、日本の発信でそこは気をつけなければいけないと思います。私として見てきたこと、感じてきたこと、国際社会で発信をしていただく上で、これはお耳に入れたほうがいいなということは、そこは私としてもやるべきだなと思いますね。代表的だったのが、クリーンコールという言葉もそうじゃないですか。あれは、日本の中では通用するクリーンな石炭という言葉かもしれませんが、国際社会では全く通用しない。2035年に100%電動車の販売ということになりましたけど、その前の文言であった2030年代半ばと、ああいったものは駄目ですね。よりクリアに明確に分かりやすく国際社会には伝えなければいけないと思います。

小泉氏は2年前に批判を浴びた後、石炭火力の輸出要件の厳格化に取り組み、菅義偉前首相による「2050年カーボンニュートラルの実現」の宣言やエネルギー基本計画の改定案への「再生可能エネルギーの最優先原則」を盛り込むことにつなげるなど、日本の気候変動対策で一定の役割を果たしてきた。これにつながったのは、COP25での経験と、河野太郎行政改革担当相の存在が大きかったであろう。

総裁選で河野氏を応援した小泉氏の言葉や経験が、岸田首相に届くとは思えないが、G20サミットやCOP26で現地に行き、他国の首脳や海外の報道機関、ジャーナリスト、環境団体などから批判を受けることは、首相が掲げる「新しい資本主義」の実現のためにもプラスになるに違いない。日程的に無理があるが、可能な限り訪英することを岸田首相には検討してほしいものだ。